2020/05/16

短編を再掲載中です。

短編ページにある「恐み恐み白す」は2020用カレンダーにおまけでつけたもので、これはネット初掲載です。他にもネット初掲載短編いろいろアップしておきました。お暇つぶしにどうぞ!

そして↓は、カミツレ畑マスクをお申し込みくださった方におまけでつけた短編です。これもついでに暇つぶしにどうぞー

 

 

『たのしいきょうどうさぎょう』

 

 夕食後の片付けも終え、郁はがさごそと堂上家内を漁りはじめた。
 というのもこの程、
 ――貧乏所帯ゆえ、隊で確保してある不織布マスクは対外業務者優先使用。内勤時は原則各自製作のマスク使用。各々準備するように。
 とのお達しがあったからである。
 貧乏所帯という理由だけでなく、確保してある不織布マスクの大半を近隣の病院――図書隊は普段から、大変、大変、お世話になっていることもあり――に寄付した事もこうしたお達しの一因である。
 そんな訳で仕事を終えて家族向け官舎へと戻ってきた郁は、早速何かマスクに適した布がないかと自分のクローゼットを漁っていた。
 うーん、これはいまいち。これはちょっと派手。などと独り言ちながらクローゼットに突っ込んでいた頭をあげたところで、タオルで頭を拭きながら怪訝な顔をして突っ立っていた風呂上がりの篤と目が合った。
「何やってんだ。……ああ、マスク用の布か」
「そー。何かないかなーって。出来れば新品」
 マスク用かー、と数秒考えた篤は、
「……待て、ある」
「あるの?」
 自身のクローゼットからどこかのショップビニールバッグを取り出した。
 袋の中から出てきたのは篤が実家に帰った時に「五枚で千円の価格破壊セールだったから」という理由で母親から一枚持たされた長め丈のトランクス。
「ちょ、パンツじゃん!」
「新品なんだからハンカチでもパンツでも一緒だろ!」
「いやまあそうだけど~、でもなんで履いてなかったの」
「親と色違いのパンツ、お前なら履きたいか?」
「あっ、無理。理解した」
 ほいと渡された新品トランクスは触った感じさらりとした楊柳生地で悪くない。どうやら夏向けだ。
「じゃあいっかこれで。長めだから四個分ぐらい作れるかな? あとは……」
 手に持ったトランクスで郁は徐ろに顔、というか口と鼻を覆った。呼吸に支障はないようだ。
「うん、息通りよーし!!」
「それはやめろ!!」
 えー、息の通りは大事じゃーんと抗議の声をあげれば「わかっちゃいるがビジュアルがきつい」と気まずそうな顔で篤は答えた。――なんだと? ビジュアルがきついとは失礼な。
 そんなこんなで郁は図書館で配布された型紙と学生時代の裁縫箱を取り出し、いそいそと作り始めた。
 楽しそうに裁断を始めた郁を、髪を拭きながら眺めていた篤だったが好奇心が抑えきれなかったらしい。秒でドライヤーを終わらせると、
「二人でやればすぐできるだろ」
 郁の隣に腰を下ろして、針に糸を通し始めた。
 結果、どっちがうまくできたかどうかという泥仕合になったものの、二人揃って楽しく作業したのだった。

 

 なお裏地は、
「これ使うのか」
 篤が微妙な気持ちになるのも無理はない――というか実のところ郁も同様だ。なにせ裏地に使った布は、郁の実家の母から「布マスク作るのに困ってると思って。ガーゼがいいんでしょ?」と送ってきたファンシーなクマちゃん総柄のダブルガーゼである。

 

 


 余談ではあるが――
 ある日の事、堂上が図書隊食堂でマスクを外した際にうっかりクマちゃん裏地を小牧に見られたということがあったとかなかったとか。

 

たのしいきょうどうさぎょう、おしまい。